2028年度 容量市場メインオークションの結果まとめ
こんにちは、グリッド研究所 所長のまるおです。昨日、容量市場の約定価格が公開されましたね。今回は2028年度のメインオークション結果を中心に、その概要や注目ポイントをざっと見ていきましょう。エリア間の価格差がはっきりと現れたことや、調整機能をもつ電源が増えていることなど、興味深いテーマが盛りだくさんですよ。
1. 容量市場ってどんな仕組み?
電力市場には、大きく分けて「電力量(kWh)」を取引するところと、「容量(kW)」を取引するところがあります。多くの方に馴染みがあるのは、実際に使った電力量に応じてお金がやりとりされる市場でしょう。しかし、それだけだと将来のピーク需要に必要な電源が十分に確保できないリスクがあるのです。
そこで登場したのが「容量市場」。将来必要になる発電能力(kW)をあらかじめ確保することで、いざというときの電源不足を防ぎ、安定供給をめざす仕組みになっています。投資を呼び込みやすいよう、将来必要になる「容量」に対して報酬を支払う形態をとっているわけですね。
2. 2028年度に向けたメインオークション、ざっくり結果は?
2.1 今回の約定結果
- 約定総容量:1億6,621万kW
└ 2028年度に必要と見込まれる電源をまとめて確保した量です。
- エリアごとの約定価格:
- 北海道・東北・東京エリア:14,812円/kW
- 中部エリア:10,280円/kW
- 北陸・関西・中国・四国エリア:8,785円/kW
- 九州エリア:13,177円/kW("マルチプライス"が一部電源に適用)
- 支払う総額(経過措置の控除を反映):1兆8,506億円ほど
エリアによって価格が大きく異なったのが特徴です。北海道・東京・九州は追加で電源を確保する必要があると判断され、比較的高めの価格に。逆に関西や北陸、中国、四国あたりは余力があるとされ低めの価格になりました。
2.2 マルチプライスって?
通常、エリア内で落札された電源には同一の落札価格が適用されますが、九州のように競争が限られていて価格が大きく上がりそうな場合、「隣のエリア(例えば中国地方)の価格の1.5倍」を上限にする仕組みがあります。これをマルチプライスと呼び、もしその上限を超える入札が落札された場合は、各電源が入札した価格で支払われます。
3. 気になるキーワードたち
3.1 経過措置って何?
容量市場の報酬を一律に高額で支払ってしまうと、古い発電所に不必要に多くの報酬がいく可能性があります。それを防ぐため、老朽化した電源や、低い価格で応札した電源には追加で支払額を控除する仕組みが「経過措置」です。
例として、2010年度末以前に運転を開始した火力発電所には3%程度の控除が適用される場合があります。ただし、控除しすぎると必要な電源を確保できなくなるリスクもあるため、最低限の保証は残す形になっています。
3.2 調整係数って何?
発動指令電源(需要を抑えるDRなど)や、出力変動の大きい再生可能エネルギーを火力などと同じ評価にすると、実際の供給力が過大に算定される恐れがあります。そこで「どの程度供給力として見込んでよいか」を数値化したものが調整係数です。
今回、発動指令電源は調整係数により80~90%台まで下がったエリアもあったようですが、調整後の値で上限容量を超えなかったため、ほぼすべてが落札候補になりました。
4. 調整機能がある電源って大事?
再生可能エネルギー(太陽光・風力)の普及が進むにつれ、出力変動を調整できる電源の重要性が高まっています。代表的なのは以下のとおりです。
- 揚水発電:夜間などの安い電気で水を汲み上げ、ピーク時に落として発電する。
- LNG火力:石炭火力よりも起動停止が速く、出力調整がしやすい。
- 蓄電池:余剰電力をため、必要なときに放電できる。特に太陽光の夜間利用に有効。
今回のオークションでも、こうした調整力を持つ電源の落札割合が増えており、電力安定供給と再エネ拡大の両立に向けてさらに期待が寄せられそうです。
5. 実際どんな課題や展望があるの?
5.1 古い火力はだいぶ減っていくかも
落札されなかった電源の約7割は、運転開始から40年以上経った火力でした。経過措置による控除の影響もあり、老朽火力には厳しい環境になりつつあると言えます。ただし、現時点で完全に置き換えが済むわけではないので、どのタイミングで新しい電源に移行するかは業界全体の大きなテーマです。
5.2 分散型の再エネ&蓄電池がカギに
今後は蓄電池やDR(需要抑制)などが大量に入札される可能性があります。特に卒FITを迎えた太陽光発電と蓄電池の組み合わせビジネスモデルが注目されており、夜間電力不足時の供給力を高める上で重要な役割を果たすかもしれません。
5.3 エリアごとの価格差はどう縮める?
今回もエリアによって数千円/kWの差が出ました。これは、送電線の連系能力による融通の制限を反映している面があります。将来、連系線を増強して相互融通をスムーズにできれば、この価格差は縮まると期待されています。しかし、送電ネットワークの投資には多額の費用がかかるため、国や電力会社での調整が不可欠です。
6. まとめ
2028年度の容量市場メインオークションでは、エリアごとの価格差、老朽火力の非落札、調整機能付き電源の増加などが大きなトピックとなりました。再エネ主力化の流れを加速するうえでも、蓄電池や揚水発電など"柔軟に調整できる"電源の確保はますます重要になりそうです。
一方で、価格の高騰は電気料金の上昇につながり、負担増となります。そこをどうバランスをとっていくかが、今後の制度設計のカギになるでしょう。容量市場はまだ歴史が浅く、試行錯誤しながら改善が進められている段階です。次回以降のオークション動向にも要注目です。
いかがでしたでしょうか。今回の結果からは、老朽火力の退場が進む一方で、調整機能をもつ新たな電源や蓄電池などが主役として台頭してきそうな気配を感じます。
今後も制度の見直しや送電インフラの整備、技術革新などが進むにつれ、容量市場の結果も変化していくでしょう。引き続き、私たちグリッド研究所としては最新情報をウォッチしつつ、皆さんにわかりやすくお伝えしていきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。これからも容量市場の動きやエネルギー業界のトピックを一緒に追いかけていきましょう!
参考資料